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  • morimasauedaus

信頼と不正は隣り合わせ。

官民ファンドから公的支援を受けて経営再建中の液晶パネルメーカー「ジャパンディスプレイ」の経理担当の元幹部が巨額の資金を着服したとして懲戒解雇され、その後元幹部が都内で死亡したとの報道がありました。経理担当の元幹部は架空の取引先の口座に業務委託費の名目で会社から振込をさせていたそうです。詳細はわからないませんがすごくアナログな不正だったんだろうな、と思ってしまいます。


20年近く前にアナログな不正が行われた現場で監査をした経験があります。現場はニューヨークにある欧州系銀行、不正による被害額は7 千万ドル以上(108円換算で75億円以上)、それに関与した人間はたった一人のスイス人プライベートバンカーでした。彼は複数の顧客の口座を使い、不正な融資を繰り返し実行していました。20年近く前とは言え、たった一人のバンカーがこれほど巨額な不正融資を実行できるのかと疑問に思われるかもしれません。通常の銀行融資であれば恐らく不可能であったと思います。しかし、この融資はプライベートバンクという特殊な環境が可能にしました。いわゆるライベートバンクは富裕層を対象にした銀行ビジネスです。プライベートバンクは一般的な銀行業務や資産運用だけでなく、それ以外のサービス、例えば絵画取引、旅行の手配などもサービスとして行っていました。そして何よりも秘密の保持が最大のサービスです。顧客側も口座の存在を知られたくないので、取引明細や残高通知の受け取り先を意図的に銀行内に設置された私書箱に設定しているクライアントも多くいました。このようなクライアントは中南米の富裕層が多くいました。理由としては銀行との取引が外部に漏れると身代金目的の誘拐のターゲットになる可能性があるので、銀行からのメールを直接受け取らないことにしていました。実際、この銀行を利用する富裕層の口座にはみたこともない桁の現金、有価証券残高がありました。要するにプライベートバンクは顧客との信頼関係がすべての銀行ビジネスということになります。


不正のからくりは驚くほど簡単でした。具体的には顧客から融資の依頼を電話で受けたことにして、事務サイドに資金の振り込みを架空口座に指示していました。電話での取引指示はプライベートバンク業務では長年行われていることで、事務サイドは疑うこともなく指示通りの金額を指示を受けた口座に送金をしていました。返済の期日が来ると、バンカーは別の顧客から電話で指示を受けたとして、それを返済に充てていました。自転車操業的に資金運用をしていたことになります。この不正は偶然他のバンカーが同じ金額のローンと返済が同じタイミングで行われていることに気づき、送金先の口座を調査したところ不正を行ったプライベートバンカーが所有していることがわかったそうです。この不正の再発防止策はものすごくアナログで担当バンカー以外が取引の実在性を確認するために電話で確認するという再発防止先でした。


プライベートバンクという特殊な環境であったものの、信頼関係を利用した不正だったと思います。ジャパンディスプレイの不正も同じことだと思います。会社が経理担当者を信頼し過ぎた結果だと思います。信頼は不可欠です。一方で信頼を利用して不利益を与えようとする人がいることも事実です。信頼とは何なのか?信頼構築の過程の見直し、信頼を少しディスカウントしてもいいのかもしれません。

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